まぶたの川
0■まぶたの川
憎まれ役を買って出てやる
あの男には見込みがある
ちょいとボロクソに言ってやった
奴はお辞儀して詫びていた
こんな親父だから
むすめには不憫(ふびん)な目に遭(あ)わせたくない
つらい 苦しいと 言うのじゃないぞ
言ってなくなるものじゃなし
男を家にあげて 差しで
焼酎を生(き)で飲んでいる
むすめは すぐそばで ほんのりと まぶたの川
祝いの日に娘が羽織るは
女房の形見の白無垢さ
あれは三拍子そろってる
さくら貝のよな女(ひと)だった
こんな親父だけど
手塩にかけて育てた自慢のむすめ
愚痴を言っても はじまるものか
言ってどうにかなるじゃなし
男はほろ酔いで 帰る
礼儀正しい男だな
むすめよ これからだ いくつものまぶたの川