■月舟
月舟のかがり火の粉が 目をうるませていたのです
影だけがおおきくなる夜 舟べりに身を預けます
泣いてても 微笑んでいるみたいでしょう
あのひとを何びとでもなく
思い出からも遠いむこうへ行かせましょう
こんな月の糸の便せんに綴る 「さよならを言うまでもない」
月舟の軋(きし)む音だけが 波へと溶けてゆくのです
乗りあわせているのはたぶん もうひとりの私でしょう
しあわせに まどろんでいるみたいでしょう
はこばれる さだめより 私
自分で自分の舟をうごかしているから
こんな月の糸の便せんに綴る 「はじめから何もなかった」
私よりも哀しいひとが
私よりも淋しいひとが