春雷
0■春雷
だからもう言わんといてつかわさい
わしはどがいになってもええんです
あんたは幸せになってつかわさい
わしはひとりでもやっていけるけえ
はみだしたシャツのまま
ドアを抜けて外へ出た
やにわにまばゆい稲光
あたりを切り裂いて
男が膝をついて頭を下げるときは
人生で二度か三度
嫁をもらう時と両親(おや)を看取る時と
愛の終わりを告げるとき
雨の匂いに入り混じる通り パンタグラフが
青い花火燃やすたびに 浮かぶ路面電車
ええから もう忘れてつかあさい
蒼蒼とした春 プンスカしとった 19の春
ひととして間違えとるかもしれん
わしはこがいな人間じゃけえのう
あんたが泣いたなら たまらんけえもう
だけど謝れんわ あんたのためじゃから
わからんといてつかはさいや
あんたにゃあいつが似合いじゃ
間違いで惚れちょったろうが
見とりゃわかるけえのう
男が形相変えて 気色ばんでいるのは
心から詫びるときじゃ
なんともしらず なにもしてやれんで
迷惑ばかりかけちょった
ひとの靴たちでうずまる舗道 八丁掘で
なにをしよるかわからんよ どこ行っとるんね
ええから もう涙は拭(ふ)きんさい
胸を殴るような 愛が重かった 俺の19
はみだしたシャツのまま
ドアを抜けて外へ出た
やにわにまばゆい稲光
あたりを切り裂いて
男が膝をついて頭を下げるときは
人生で二度か三度
嫁をもらう時と両親(おや)を看取る時と
愛の終わりを告げるとき
雨の匂いに入り混じる通り パンタグラフが
青い花火燃やすたびに 浮かぶ路面電車
ええから もう忘れてつかあさい
蒼蒼とした春 プンスカしていた 19の春