あの悲しみはよかった
0■あの悲しみはよかった
ひぐらしが人恋しさ掻き立てて
せわしくなく鳴いていた
きみと川べりを自転車を押して
一緒に帰ったあの日
進路指導のたびに つっけんどんになる
僕たちをつつんでる
斜めの夕日が やけが綺麗すぎて
なんだかやたら頭にきてた
卒業したら離ればなれだね
チェーンのまわる音だけして
ふと顔をあげて彼女は言った
あの悲しみはよかった いつかきっとそう思えるよ
思い出になる頃には ふたりでよかったとおもえるよ
わけもわからず 笑ったあとで
急に黙りこくったり
何がなんだかもう わからなかった
あの叫びこそ恋だったんだ
隔ててるのは距離ではないんだ
線引きする心さ
さよならと言われた印象がない
くちびるだけぼやけていた
いくつかの季節通り過ぎても
僕の一部はあの日のまま
どんな過去も僕をつくっている
あの悲しみはよかった 胸に静止画の僕たち
制服なんて脱ぐため 学校なんて卒業するため
今も無断できみを思う 僕を許可してくれ
卒業したら離ればなれだね
チェーンのまわる音だけして
ふと顔をあげて彼女は言った
あの悲しみはよかった いつかきっとそう思えるよ
あんな悲しい気持ちは 後にも先にも二度とないよ
今だから思える
あの悲しみはよかった あゝ よかったんだよ