■水を浴びる女
言うに言えないことばかり
聞くに聞けないことばかり
夜寒に灯りを消したまま
女は何度も水を浴びます
洗っても洗っても 肌に
あいつがあらわれる
流すたび流すたび なぜか
涙が冴えてゆく
よごれた思い出よ
消えるまで すべてが 消えるまで
我が身さえざえと
女は水を浴びつづけるのです
忘れ忘れて かえれずに
こんな女の 身代わりに
ほつれ毛ひとつ 泣いている
月日が食いこみ 身も細る
探しても 探しても こころ
居所はないと同じ
叫びだけ 頬を切る またも
心引きずられる
お酒も煙草もよ
とどまれよ あいつごと 厭(いや)なほど
もて余す体に
水かけると余計熱くなるのです