霧子
0■霧子
あんたはいい男だけど駄目よ
ワルじゃなきゃわたしが駄目になる
霧子と言ったが この俺だけが
その実名を なぜか知ってた
きっと淋しい女だったんだね
偲(しの)んで飲む奴は俺だけ
仕方ないんだわ好きでうまれた
わけじゃないとよく言っていた
お前が別れてきた過去が
どうにもお前を許してくれないらしい
ゴロツキまでもが安堵の息をつく
正統派の男たちは せいせいする
死んでお前は名をあげる 今夜の雨はパレード
色めき立ってよろこぶ歓楽街 お前の笑う声が聞こえる
街燈にあつまってゆれる
ひとは夜盗蛾みたいなもの
匿名でいれば 何とでも言える
悪口と噂もやがて消える
真実なんてひとそれぞれさ
お前をめぐるインチキなデマ
吹聴される噂のどれもが
嘘であり本当であるように
仮の住所、仮の名前に
終(つい)には魂すら在るや無しや
今度生まれたら 心など持たない
透明なしずくみたいになりたいと言った
お前のどんなかざりより 半泣きの顔きれいだった
雨の窓にへのへのもへじ 描いていた お前は弱い女だった
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