図書館
0■図書館
時おり図書館に寄る
何か読みたくて
古いインクと紙の混ざる
あまい匂いを嗅ぎに
特に本にはこだわらず
拡大鏡を置いて読む
イネス・デ・カストロとペドロを
ぼくとあの娘に見立てたりして
時の支配人 あなたに聞きたい
ぼくの愛は
長らく貸し出し中の本
いつもどってくる
栞はさんで 投げだしたままある
ぼくらの 本のストーリー
装丁から こぼれおちて白紙さ
でも想いは余白に綴られている
図書館のアーク窓から
差し込むひかりに
浮かぶぼくらは孤島のように
卒論を終え行方知らず
時の支配人 返却予定日
過ぎてなおも
あの娘はぼくの本をかえさず
愛にも答えない
今もぼくは逃げつづけている
会えない年月からも
いわば知恵熱なのさ
時おり図書館に寄る
何か読みたくて
古いインクと紙の混ざる
あまい匂いを嗅ぎに